キ ス 




エクスフィア回収の旅に出てから早2年の年月が経っていた。
もちろん二人はその間2年分の成長をしたわけでコレットは誰が見ても美女と呼ぶほどに綺麗になっていたし、ロイドも背が伸び幼さを残した顔もしっかりと引き締まった凛々しい青年になっていた。
そんな二人が人通りを歩けば必ず何人かは振り返り羨望の眼差しで見るわけで、他人から見た二人は一つの理想のカップルだった。

だがそんな二人も恋の事となるとそんじょそこらの子供よりも清かった・・・・

何せ一方は天然ドジッコ系ヒロインと呼ばれるコレットと、もう一方はドワーフに育てられたためか17歳にもなって”乙女”の意味もわからない男、ロイドである。

・・・・・彼らの恋は前途多難を極めることになる
なんと二人はまだキス(口と口でするヤツよ☆)をしたことが無かったのである



       


天然ドジッコ系ヒロインと呼ばれるコレットも19歳にもなるとだいぶ落ち着きがでていた。
もちろん今でもヒロインのくせにモンスターからアイテムを盗んでいたし、転べば漫画のように人型の穴を壁に開けたりはしてたが・・・少なくとも恋ごとで言えばロイドの数倍はよく知っていた。

もともとそういうことは男より女の方が関心が高いといわれている(一部例外もいるが・・・例:アホ神子)そのためコレットは両思いになって2年以上経つのに未だにロイドとキスをしていないことをひじょうに、ひじょ〜に気にしていたのだった。

(私って・・・そんなに魅力が無いのかなぁ? 確かに胸はしいなみたく大きくないけど・・・・)

ちなみに2年間で期待していたほど大きくならなかった胸のこともひじょ〜に気にしているコレットだった。




現在ロイドとコレットはエクスフィアの回収の息抜きにフラノールへと観光にきていた。
毎日のように雪が降るそこで年に一度だけ行われる特別なイベントを見るためだ。

スノーキャンドルフェスティバル

スノーキャンドルというのは雪や氷で出来た容器の中にロウソクを入れたモノのことで、フラノールでは町を挙げて何千個というスノーキャンドルが作られる。
その寒冷な風土を利用して作り上げられたスノーキャンドルは火を灯すことで幻想的な光を生み出すのだ。
雪がゆっくりと降るそこにスノーキャンドルによってもたらされる無数の光が生み出す幻想。
観光パンフレット曰く”それは恋人ととの雰囲気作りに一役も二役も買ってくれる”らしい。

もちろん最初にそこに行こうと言い出したのコレットだった。
なぜならコレットはジーニアスが去年プレセアとそこでデートをして見事初キスを成功させたとの情報をを得ていたのだ。(byみずほの里)

自分達より遙かに両思いになるのに時間がかかったはずのジーニアスとプレセアが先に初キッスを済ませてしまうとは・・・それはある意味コレットにとってとても悔しいことだった。

ちなみにジーニアスはプレセアとキスしたとたん鼻血を出しぶっ倒れたそうである。



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道沿いに規則正しく並べられたキャンドルの炎が宝石のように色とりどりに輝き夜空を照らしていた。
ロイドとコレットは町中を散策しながらろいろな形をしたキャンドルを楽しんでいるうちにいつの間にか2年前お互いの未来を語り合ったあの高台に着いていた。

今夜見える夜景はあの時より遙かに美しく、思わずため息が出てしまうほどだった。
ロイドとコレットはその景色に夜の寒さも忘れ幻想の世界に見入っていた。

「きれいだねぇ」
「ああ、ホントに・・そうだな」

肩もぶつからんばかりに寄り添いあった二人の間は甘い雰囲気で満ちていた。
コレットはそっとロイドの右手に手を伸ばした。
ロイドもそれに気づきコレットの左手を握りしめた。
目を合わせなくても隣にる相手の気持ちまでもが伝わってくるようだった。

(ここまでの掴みはバッチリだよね)

「ロイド」
「ん?なんだコレット」

コレットは少し首を上げ、ロイドの顔を見ると目を閉じた。

(この雰囲気、そしてこのタイミング! もう、これならいくら鈍いロイドでも気づくよね!! )

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

だがいくら待ってもロイドのキスは降りてこなかった・・・

いい加減我慢の限界がきて目を開け見ると、申し訳なさそうに左目を閉じてコレットを見るロイドがいた。

「ごめん・・・コレット・・・俺、まだそれは早いような気がするんだ」
「どうして?」

(私じゃ、ダメなの?それに・・・早いって? 私とロイドじゃまだキスは早すぎるってことなの??)

「だって・・・キスすると・・・コレットにあ、赤ちゃんができるんだろ。・・・俺コレットの事すっごく好きだけど・・・俺たちにはまだエクスフィアの回収とかもあるし、子供を育てるにはまだ早いような気がするんだ!」

冗談じゃなく本気で言ってるよコイツ!! 今時キスで子供ができるって信じてるヤツってどうよ!?
ツッコミを入れるならまさにそんな感じだろう。

ロイド、真剣の告白にコレットはビシッと白く固まっていた。

「お、おい、コレット!?どうしたんだ?」

急に固まり動かなくなったコレットを見て慌てて肩を揺らして意識を確認しようとするロイド。
硬直が溶けたコレットは一瞬気を失い欠けた体をロイド支えてもらいながら尋ねた。

「・・・・ロイド・・・・それ・・・誰に聞いたの」
「へ??・・・・お、親父にだけど」

その昔、ダイクはロイドの『赤ちゃんはどうやったら出来るの?』という質問に、答えが恥ずかしく言えず、出任せ半分に『そりゃオメェ、キスすると腹に赤ちゃんの種が出来るんだ』というウソをロイドに教えていたのだ。
そしてロイドはそのウソを疑いもせず今日の今まで信じ続けていたのだった。

コレットはショックで痛む頭を右手でおさえながらロイドの間違いを訂正した。

「ロイドあ、あのね。キスじゃ子供はできないと思うの」
「へ?どうして。」

(・・・どうしてっていわれても。でも赤ちゃんってどうやったらできるんだろ??って、そうじゃなくて!)

実を言うとコレットもキスで子供ができるとはさすがに信じてはいないが具体的なことはよく知らなかった。

「ど、どうしてって。その方法だと・・・・お、男同士でもキスしたら男の人にも赤ちゃんができるってことでしょ。」
「男同士でキスするやつっているのか!?」
「よ、世の中にはそういう趣向の人もいるの!」
「!!そ、そっか。でもそうだよな。よく考えればそんな簡単な方法で赤ちゃんができたりしないよな」

(よく考えればわかるなら最初から考えてよ〜)

ハハハッと頭を掻きながら潔く笑うロイドを見ながら”純粋すぎるのも度を超せばただのバカ”・・・という言葉がコレットの頭の中を横切るのだった。

(でもそういうところがロイドらしくていいよね)
ロイドの笑い顔を見て気がゆるんだのかコレットはポツリと呟く。

「だ、だから私にキスしても・・・その・・・・大丈夫だから」
「コレット?」
「う、ううん。な、何でもないよ」

思わず口走ってしまったその言葉を首を大きく振って誤魔化す。恥ずかしさからかコレットの顔は真っ赤になっていた。

「そろそろ宿にもどろるか?顔真っ赤になってるぞ」
「そ、そうだね!」

ロイドはコレットの顔が真っ赤なのは寒さのせいだと勘違いしたようだった。
コレットは一歩先を歩くロイドの後ろ姿を見ながら、誤魔化し切れたことにホットし、そして今回のチャンスを逃したことを残念に思いながら、

(でもロイドもちゃんとキスの意味がわかったみたいだしこれからだってチャンスはあるよね。)

そう前向きに考えながらロイドについて行こうとした。



「そうだコレット忘れてた。」

ロイドは急に立ち止まるとコレットの方を見つめていた。

「なに?」

立ち止まるコレットにロイドは一歩ずつゆっくりと近づくとその両肩に手を置いた。


「今まで、・・・・・ごめんな」


耳元でささやく愛する人の声がても心地よくコレットには感じた。
そしてコレットはロイドの顔が今までで一番近づいてきたところで目を閉じる。

ロイドはゆっくりとコレットの唇に顔を寄せると自分の唇をそこに当てキスをし・・・・そしてそのままコレットと同じように目を閉じた。

いつの間にか二人の両手は互いの肩を抱きしめあっていて
・・・・その恋人達の姿ははまるで一枚の絵のようで
降り積もる雪も淡いキャンドルの光も二人を祝福しているかのようだった。




ずーと待っていた世界の誰よりも好きな人からのキス。
それは・・・たぶん世界で一番優しいキスだった。




END